証拠の記述
予防とは、がん発生率が低下することによりがん死亡率が低下することであると定義される。これは、発がん物質を回避するかまたはその代謝を変化させること;がんの原因となる諸因子または遺伝的素因を修飾するライフスタイルまたは食習慣を実践すること;医学的介入(例、化学予防);または大腸ポリープに対する結腸鏡検査など、前がん病変を切除することができる早期発見戦略により達成できる。
PDQがん予防要約について
PDQがん予防要約は、特定の悪性腫瘍が有する独特な特徴の考察を容易にするため、主にがんの特異的な解剖学的部位ごとに構成されている。本セクションでは、広範な悪性腫瘍の予防に用いられる選択された予防戦略に対する証拠の要約など、がん予防戦略の概要を提供する。しかしながら、これらの戦略の証拠の強さおよび影響の大きさは、がんの部位によって異なる。PDQの他のがん予防要約では、特異的な種類のがんの予防を扱っており、より詳細な証拠の記述が提供されている。
がんの原因については多くの一般的な信念または推測が存在する。しかし、肯定的または否定的のいずれにせよ、科学的根拠がほとんど存在しない推定上のがんの原因は、PDQがん予防要約では検討しない。したがって、これらの要約に特定の環境因子、食物因子、またはライフスタイル因子が含まれていない場合は、詳細な検討を行うための証拠が不十分であることを示しており、必ずしも効果がないことを意味しているとは限らない。そうした多くの因子は、がんに対する潜在的な役割について研究が行われるべきであるが、その研究が存在しない場合、発表されていない場合、または編集委員会により質が低いと判定された場合、PDQがん予防要約ではそれらを取り扱わない。
発がん
発がんとは、がんに至る根底にある病因学的経路を意味する。発がんのいくつかのモデルが提唱されている。広く引用されている発がんの2つのモデルは、VogelsteinおよびKinzlerのモデル [1] とHanahanおよびWeinbergのモデル [2] である。VogelsteinおよびKinzlerのモデルでは、がんは究極的に損傷したDNAの疾患であり、正常細胞をがん性細胞に形質転換させうる一連の遺伝子突然変異で構成されると強調されている。遺伝子突然変異には腫瘍抑制遺伝子の不活性化とがん遺伝子の活性化が含まれる。一般集団に発生するがんと比較して、がんに対する主要な遺伝的素因を有する個人は、がんの原因に関与する遺伝子に遺伝的(すなわち、生殖細胞系)突然変異をもって生まれ、がんへの経路において先行したスタートを切る。すべての個人において、類似の突然変異はがん進行を引き起こすと予想される;しかしながら、主要な遺伝的がん素因をもたない個人における突然変異は生存期間中の後期に体細胞突然変異として起こる。
HanahanおよびWeinbergのモデルは、細胞レベルで悪性腫瘍に至る特徴的なイベントに焦点を当てている。このモデルでは、がんの特徴として、持続性の血管新生、無限の複製能力、アポトーシス回避、増殖シグナルの自給自足化、および抗増殖シグナルに対する非感受性などが挙げられており、浸潤および転移する能力を与えることで悪性腫瘍の特徴が定義される。このモデルは、悪性腫瘍は有機体の環境内で発生および繁殖するという事実を強調している。組織構成分野理論(tissue organizational field theory) [3] では、発がんは細胞よりもむしろ組織レベルでより良く概念化されると仮定されている。この理論は、発がんは組織形成における欠損により推進される、およびすべての細胞は本質的に増殖状態にあるという二重の前提に基づいている。
このような発がんのモデルは意図的に単純化されているが、にもかかわらず、発がんにはしばしば数十年かけて起こる一連の段階が必要であることを示している。
発がんの複雑さは、これらのモデルにより記述される個別の詳細な発がん経路が個々の解剖学的部位に独特な特徴を有することが予想されることを考慮する際に強められる。こうした状況において、悪性腫瘍の危険因子および臨床的特徴は、解剖学的部位および同じ解剖学的部位内の異なる腫瘍の種類により相当なばらつきを示す。これらの理由から、ヒトのがんは実際には単一の疾患ではなく、異なる疾患群である。
危険因子
複数の観察的疫学研究により、修正可能なライフスタイルの諸因子または環境暴露と特定のがんとの間には関連が示されていることからがん予防は有望である。少数の暴露について、複数の疫学研究および実験室での研究に基づく手がかりによって示唆される介入法ががん発生率および死亡率を低下させるかどうかが、複数のランダム化比較試験で検証されている。
がんと因果関係がある危険因子
喫煙/タバコ使用
何十年間にもわたる研究により、タバコ使用と多くの部位のがんとの強い関連が一貫して確立されている。特に、喫煙は、肺がん、口腔がん、食道がん、膀胱がん、腎がん、膵がん、胃がん、子宮頸がん、および急性骨髄性白血病の原因として確立されている。これらの関連を確認する一連の疫学的証拠は強固である。さらに、米国における肺がん死亡率は喫煙傾向を反映していることから、このことが裏づけられており、喫煙率が増大するとそれに次いで肺がん死亡率が劇的に増大し、近年では喫煙率が低下したため、それに次いで男性における肺がん死亡率が低下した。正確な測定が比較的容易な単一の暴露として、この一連の大規模な証拠から、喫煙は米国におけるがんによる全死因の30%を占めていると推定されている。喫煙の� �避および禁煙により、がんの発生率および死亡率は低下する。(詳しい情報については、肺がんの予防;肺がんのスクリーニング;および喫煙:健康上のリスクと禁煙方法に関するPDQ要約を参照のこと。)
感染
全世界的に、感染性因子は全がん症例の18%を引き起こしていると推定されている。 [4] 感染により引き起こされるがんの負担は、発展途上国(26%)の方が先進国(8%)におけるよりもはるかに大きい。ヒトパピローマウイルス(HPV)の発がん性株感染は、その後の子宮頸がんに必要なイベントであると考えられており、ワクチン接種で免疫が得られれば、前がん病変は顕著に減少する。HPVの発がん性株はまた、陰茎がん、膣がん、肛門がん、および中咽頭がんとも関連している。がんの原因となる感染性因子の他の例は、B型肝炎およびC型肝炎ウイルス(肝がん)、エプスタイン-バーウイルス(バーキットリンパ腫)、およびヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pylori)(胃がん)である。感染性因子が真にがんの原因である場合、感染症に対する効果的な介入はほとんどの例で有効ながん予防の介入となることが期待される。これは、HPV発がん性株感染を予防するワクチンに関する期待である。この原則が当てはまらない例は、抗生物質を使用してもがんの原因となる細菌による発がんを防止できない抗生物質耐性の状況である。(詳しい情報については、子宮頸がんの予防;子宮頸がんのスクリーニング;肝(肝細胞)がんの予防;および肝(肝細胞)がんのスクリーニングに関するPDQ要約を参照のこと。)
放射線
放射線は、高速の粒子または電磁波という形のエネルギーである。放射線、主に紫外線および電離放射線への暴露は、明確に確立されたがんの原因である。太陽紫外線への暴露は非黒色腫皮膚がんの主要な原因であり、非黒色腫皮膚がんはヒトの集団において群を抜いて最も一般的な悪性腫瘍である。 [5]
気分障害のリスト
電離放射線は、しっかりと結合した電子をその軌道から引き離し、原子を荷電またはイオン化させるほど十分なエネルギーを有する放射線である。生細胞の分子により形成されるイオンは、細胞内の他の原子と反応し始め、損傷させる可能性がある。低線量(例、バックグラウンド放射線と関連する線量)では、細胞は損傷を迅速に修復する。中等度の線量では、細胞は永久的に変化し、損傷を修復できずに細胞死が起こることがある。永久的に変化した細胞は分裂時に異常細胞を産生させ始め、場合によってはこれらの変化した細胞ががん化するか、または他の異常(例、先天性欠損)につながることがある。
電離放射線への暴露とがん、および特に、血液学的システム、乳房、肺、および甲状腺にかかわるがんの発生とを関連づける広範な疫学的および生物学的証拠が存在する。この話題に関して最も広く引用される情報源であるNational Research Council of the National Academies、Committee to Assess the Health Risks from Exposure to Low Levels of Ionizing RadiationのBiologic Effects of Ionizing Radiation VII報告 [6] により、医学文献の包括的レビュー後、完全に安全であると考えられる放射線量はなく、放射線量はできる限り低く維持するよう試みるべきであると結論づけられた。この報告において、電離放射線暴露とがんとの関連を実証する主に3系列の証拠が引用された。最初の証拠は、日本の原爆生存者におけるがん発生の研究から得られている。原爆生存者は、低線量の放射線でもがんを発生させるリスクが有意に高かった。2番目の証拠は、悪性および良性の両方の疾患に対して医学的に放射線を受けた集団の疫学研究から得られている。悪性疾患に対する高線量の放射線療法を受けた後は、二次悪性腫瘍のリスクが高い。1940年から1960年にかけて、良性疾患に対する放射線の比較的一般的な使用により、がんを発生する相対リスク(RR)がかな り高くなった。3番目の証拠は、診断用X線を受けた患者とX線技術者の両方における医学的な電離放射線に対する暴露と関連するがん特異的死亡リスクの増加から得られている。
電離放射線への集団暴露の主な原因は、医療用放射線(X線、コンピュータ断層撮影[CT]、蛍光透視、核医学診断など)および家の地下室で自然に発生するラドンガスである。電離放射線への暴露は、CT使用の劇的増加の結果として過去20年間増加している。CTに伴う電離放射線への暴露は、発がんが実証されている範囲内にある。 [7] [8] (詳しい情報については、乳がんの予防;乳がんのスクリーニング;皮膚がんの予防;および肺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
CTスキャンなど、X線の使用機会が増加している。 [9] CTスキャンによる放射線量は、がんのリスク増大が直接観察されているレベルにある。 [10] 被曝線量には、研究の種類ごとに20倍もの施設間差がある。将来の発がんリスクは被曝時の年齢や性別に依存し、被曝時の年齢が高いほどリスクは低く、また各年齢群で女性は男性よりも高リスクである。例えば、40歳代で冠動脈造影検査を受けた女性における放射線由来のがんの発生率は270人に1例だが、男性では595人に1例である。腹部・骨盤部CTスキャンを受けている年齢20歳の男女のうち、女性では470人に1人、男性では620人に1人が将来的に放射線関連のがんに罹患する。 [10] 推計によれば、2007年に米国で行われたCTスキャンが原因で将来29,000例(95%不確定性区間は15,000~45,000)のがんが発生することになる。35歳から54歳までの男女では、推計でがんの3分の1がCTスキャンを原因としていた。この推計値は、米国での調査で得られた臓器特異的な放射線量、2007年における年齢別、男女別のCTスキャン受診回数および保険金請求データを用いたリスク・モデルと米国学術研究会議の報告書「電離放射線の生物学的効果」を基に導出された。 [9] 医療における画像撮影で放射線に繰り返し暴露すると、がんのリスクは暴露に比例して高まる。ある研究では、医療での画像撮影により放射線に暴露した被験者の半数が、3年以内に再度の画像撮影を経験していたことが示された。全体的には、3年間追跡した約100万人の被験者の0.2%が、50mSv以上の照射を受けていた。 [11] 不必要なCTスキャンを制限し、放射線被曝線量を低減することが重要な予防戦略である。
がんとの関連が不確定な危険因子/予防因子
食事
がんの集団への負担に対する食事の潜在的な寄与に関する推定は大きく異なっている。喫煙とがんに関する疫学的証拠とは対照的に、食事因子の影響とがんに対する証拠は不確定である。食事の潜在的な役割の評価には、がんを予防しうる因子とがんリスクを増加させうる他の因子で構成される食事の正味の寄与の測定が必要である。個人の通常の食事およびその食事のがんリスクとの直接の関連を測定することもまた難題となる。
World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research(WCRF/AICR) [12] により発表されたがん予防との関係における食事の総体的証拠の評価は、疫学的証拠の系統的レビューに基づいていた。がんを予防しうる食事因子に関して、果物および殿粉を含まない野菜に対して最も際立った一貫性が認められた。WCRF/AICRの報告において、果物および殿粉を含まない野菜の両者は、口腔がん、食道がん、および胃がんに対して"おそらくリスク低下"と関連しているという結論に達した。果物(ただし殿粉を含まない野菜ではない)はまた、肺がんの"おそらくリスク低下"とも関連していると判断された。したがって、がん予防の潜在能力が最も高いと現在の証拠が示唆している2種類の食事に暴露していても、証拠はあまり確証的ではないと判断され、ごく少数の悪性腫瘍にしか適用できなかった。
研究デザインの種類により実質的に異なる結果に至った例から、食物および栄養摂取とヒトのがんリスクとの関係の複雑さがさらに例証されている。複数の観察的疫学研究(ケースコントロールおよびコホート研究)により、食事とがん発生との関連が示唆されているが、介入に関するランダム化試験からはほとんどまたは全く支持されていない。例えば、集団ベースの疫学的データによると、繊維を多く含む食事が結腸新生物の予防に推奨された。しかしながら、栄養補助としての小麦ふすま繊維を検討した1件のランダム化比較試験では、以前にポリープを切除した個人において、その後の腺腫性ポリープのリスクは低下しなかった。生態学的研究、コホート研究、およびケースコントロール研究から、脂肪と赤身肉の摂取と結腸がん リスクとの関連が明らかになったが、閉経後女性における低脂肪食について検討した1件のランダム化比較試験では、結腸がんの減少を示さなかった。低脂肪食は、すべてのがんによる死亡、全死亡率、または心血管疾患のいずれにも影響しなかった。
生涯に渡る食生活のパターンまたは特定の時期に摂取する食物は、がんの誘引または予防に重要と考えられるが、比較的短期のランダム化臨床試験では、これらの重要性を検出できないのではないだろうか。
アルコール
がんリスクを増加させうる食事因子に関して、WCRF/AICRの報告における最も強い証拠は飲酒を支持した。飲酒は、口腔がん、食道がん、乳がん、および大腸がん(後者は男性について)のリスクを増加させるという証拠は、"説得力がある"と判断された。さらに、飲酒は、肝がんおよび大腸がん(CRC)(後者は女性について)のリスクを増加させるという証拠は、"もっともらしい"と判断された。
ヒトのがんとの関係において、食事は、果物/野菜の摂取および飲酒の例で実証されているように、暴露の複雑な混合の総計を反映する。すべての形態のがんと一様に関連していると考えられる食事因子は存在しない。(詳しい情報については、乳がんの予防;乳がんのスクリーニング;大腸がんの予防;および肺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
エフェドラ無急激な減量製品は重量を失う
身体活動
身体活動がより多い人は、座位がより多い人より特定の悪性腫瘍のリスクが低いことを示唆する疫学的証拠が増している。WCRF/AICRの報告において、身体活動の増加は大腸がんを予防するという証拠は、"説得力がある"と判断された。身体活動は、閉経後乳がんおよび子宮内膜がんのリスク低下と関連するという証拠もまた、"もっともらしい"と判断された。上述の食事因子と同様に、身体活動は、選択された悪性腫瘍においてより際立った役割を果たしているようである。選択された悪性腫瘍に対して観察された逆の関連性によって、このことは特に因果関係が確立されていないために、がん予防研究の有望な分野となっている。肥満に伴ってみられる多くのがんの過剰リスクは、身体活動が少なくとも2~3のがんと逆相関している� �とを示唆する証拠と相まって、エネルギーバランスはがんリスクに影響している可能性があるという仮説を提起している。(詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;および子宮内膜がん(子宮体がん)の予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
肥満
肥満はがんの重要な危険因子としてますます認識されつつある。WCRF/AICRの報告で、肥満は閉経後乳がんおよび食道がん、膵がん、大腸がん、子宮内膜がん、および腎がんと説得力をもって関連していると結論づけられた。それに加えて、WCRF/AICRの報告で、体脂肪は胆嚢がんに対するおそらく危険因子であると判断された。がん死亡率との関係における肥満を調査した全国的に典型的なコホートを対象にした1件のプロスペクティブ研究では、がんと関連する因子はどのヒトの悪性腫瘍にも一様に適用されるわけではない点が強調されている。研究結果から、肥満は肥満関連悪性腫瘍により死亡するリスクの増加と関連するが、肥満は総合的がん死亡率とは関連していないことが明らかにされた。 [13] 未だ確立されていないが肥満と上述のがんとの関連に因果関係がある場合、米国やその他の地域における肥満有病率の現在の増加は、がん予防の努力に対する重大な問題となる。その上、体重減少は肥満関連悪性腫瘍のリスクを低下させるということは未だ示されていない。 [14] (詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;子宮内膜がん(子宮体がん)の予防;および肺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
有益性が証明された介入
化学予防
化学予防とは、浸潤がんが現れる前に早期の発がんを妨げるため天然または合成の化合物を使用することである。 [15] 化学予防試験ではある程度、肯定的な結果が得られている。選択的エストロゲン受容体モデュレータ(タモキシフェンまたはラロキシフェン)を毎日最高5年間使用すると、高リスク女性における乳がん発生率を約50%低下させる。フィナステリド(アルファ-レダクターゼ阻害薬)は前立腺がんの発生を低下させる;この知見はプラセボ群と比較してフィナステリド群における高悪性度がんの累積発生率がより大きいために複雑化した。追加の分析により、これはフィナステリドが前立腺(ただしがんではない)を縮小させ、それにより前立腺がん発がんの進行に寄与することなく高悪性度がんを診断する能力が増加したためであると示唆されている。デュタステリドも同様に前立腺がんの発生率を減少させることが示された。 [16] フィナステリドが前立腺がん死亡率に及ぼす影響は不確定である。
化学予防の他の候補として、COX-2阻害薬およびアスピリンがある。COX-2阻害薬は、前炎症性プロスタグランジンの合成に関与するシクロオキシゲナーゼ酵素を阻害する。COX-2阻害薬が結腸がんおよび乳がんの予防を示唆する証拠はあるが、心血管イベントが増加する可能性があり、その有用性は妨げられる。主要エンドポイントを血管イベントとした7件のランダム化プラセボ比較試験から得られた蓄積データの2次分析では、4年以上のアスピリン毎日投与が全がん死亡率の18%の低下と関連していた(オッズ比、0.82;95%信頼区間[CI]、0.70-0.95)。 [17] アスピリンががんの発生率の低下に同じ効果があるかどうか未解決の問題が残存しているが、結腸がんに関する証拠は示唆されている。また、リスク-便益プロファイルの評価は、出血のリスク対するアスピリンの効果を説明するために必要である。(詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;および前立腺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
有益性が証明されていない介入
ビタミンおよび栄養補助食品の使用
がん予防のためにビタミンおよびミネラルサプリメントを提唱している者もいる。抗がん効果のための多くのさまざまな機構的な経路が引き合いに出されている。一般的に検証されている仮説は、DNAに対する酸化損傷ががん進行に至るという前提に基づいて抗酸化ビタミンはがんを予防する可能性があるということである。それゆえ、DNAの酸化的損傷を防止することでがんへの進行が阻止されるであろう。しかしながら、がんを予防するための総合ビタミンおよびミネラルサプリメントまたは単一ビタミンまたはミネラルの使用を支持する証拠は不十分である。 [18] ベータカロチンは、食べ物からのベータカロチンの食事による摂取または食事での摂取のマーカーとしての血中レベルを調査した数件の観察的疫学研究の結果に基づいて、肺がんに至る喫煙に関係する変化を予防または逆転すると考えられていた抗酸化物質である。 [12] しかしながら、2件のプロスペクティブプラセボ対照試験により、ベータカロチンサプリメントを受けていた喫煙者と前喫煙者で肺がんの発生および肺がんによる死亡が増加したことが明らかにされた。 [19]
栄養補助食品の使用については、この他にも予期しない有害事象が報告されている。カルシウム500mg/日以上 vs プラセボの毎日の投与を評価した11件の二重盲検ランダム化プラセボ対照試験のメタアナリシスによって、カルシウムサプリメントが心筋梗塞の有意なリスク増大に関連することが実証された(RR、1.27;95%CI、1.01-1.59)。 [20] 食事によるカルシウム摂取の心筋梗塞のリスク増加への関与は観察されなかった。 [21] 食事によるカルシウム摂取と大量補給との知見の不一致により、食事による摂取に比べて栄養補助食品を選択する価値について疑問がもたれるようになった。1986年に55歳から69歳の4万人以上の女性が登録した観察研究であるIowa Women's Health Studyでは、栄養補助食品の使用と死亡との関連が調査された。 [22] 総合ビタミン、B6、葉酸、鉄、マグネシウム、亜鉛、および銅の使用により、統計的に有意な死亡の過剰リスクが観察された。非使用者と比較して死亡率の統計的に有意な低下と関連したのはカルシウム使用者のみであった。
ビタミンおよびミネラルサプリメントの潜在的な抗がん特性の研究が進行中であり、結果は引き続き、がんの予防に関してビタミンサプリメントの効力の不足を強調している。Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial(SELECT)の長期にわたる追跡の結果、プラセボと比較してビタミンE補給(all rac-α-トコフェロールアセテート400 IU/日)に伴う前立腺がんの統計的に有意な過剰リスクが明らかにされた(ハザード比[HR]、1.17;99%CI、1.0004–1.36;P = 0.008)。ビタミンE使用に伴う前立腺がんリスクの絶対的増加は、1,000人年当たり1.6人であった。セレンは前立腺がんリスクを低下させなかった(HR、1.09;99%CI、0.93–1.27)。 [23]
Physicians' Health Study IIの結果から、ビタミンEおよび/またはビタミンCの補給は、前立腺がん発生またはすべてのがんの発生の予防に関してプラセボと比較して有益性が認められないことが実証された。 [24]
それは、うつ病や双極性です。
Women's Antioxidant Cardiovascular Studyの結果から、プラセボと比較してビタミンC、ビタミンE、またはベータカロチンの補給は、すべてのがんの発生を低下させる上で効果がないことが示された。 [25] この同じ研究において、葉酸、ビタミンB6、およびビタミンB12を含む毎日のサプリメントがプラセボと比較された;この介入はがん発生の全リスクを低下させる上で効果がなかった。 [26] ノルウェーの2件のランダム化比較試験で蓄積されたデータの探索的解析では、葉酸とビタミンB12による治療を受けた患者のがん発生率とがん死亡率は、プラセボまたはビタミンB6単独の投与を受けた患者と比較して、いずれも高くなることが示された。 [27] (詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;肺がんの予防;前立腺がんの予防;および前立腺がんのスクリーニングに関するPDQ要約を参照のこと。)
環境暴露と汚染物質
環境汚染物質と発がんリスクの関係は、長い間、研究者や一般市民の関心の的となってきた。暴露の型式別にがんの潜在的負担を推計したところ、前述した喫煙や感染症などの因子ががん負担に占める比率は、環境汚染物質が占めるそれよりもはるかに大きかった。とはいえ、環境汚染物質とがんの間にある程度の関連性があることは明白である。おそらく肺は大気中の汚染物質に対する暴露の度合いが最も高いので、汚染物質とがんの関係を示す最も確実な例は、煙草の副流煙、屋内ラドン、屋外大気汚染や中皮腫のアスベストなど、特に肺がんに関連するものである。がんと関連性のあるもう一つの環境汚染物質は、飲料水中に含まれる高濃度の無機ヒ素で、これは皮膚がん、膀胱がん、肺がんとの因果関係があるとされる。殺虫剤� ��ど他の多くの環境汚染物質についても、ヒトにおける発がんリスクの評価が行われているが、確定的な結果は得られていない。これらの研究では、例えば長期間の暴露量をどうすれば正確に計測できるかなど、方法論について困難な課題に直面しており、それが環境汚染物質とがんの関連性の解明を難しくしている。
要約
上で考察した話題の一覧は網羅的ではない。ほかに、がんリスクに(有益にまたは有害に)影響すると知られているライフスタイルおよび環境因子には、特定の性および生殖行為、外因性エストロゲンの使用、および特定の職業暴露および化学暴露がある。
本要約では、いくつかの種類のがんのリスクに影響すると考えられ、かつ潜在的に修正可能であると同定されている因子が選択された。これらには喫煙が含まれており、喫煙は広範な悪性腫瘍と決定的に関連している;喫煙の回避はがん発生を低下させることが明らかにされている。潜在的に修正可能な他のがん危険因子として、飲酒および肥満がある;身体活動は特定のがんのリスクと逆相関している。これらの関連に因果関係があるかどうか、そしてこれらのリスクと関連する行為を回避または予防のための行動を増加させることでがんの発生が実際に減少するかどうかを判断するには、さらなる研究が必要である。
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