目次
おわりに
参考文献
は じ め に
最近の医学、医療技術の進歩発展が、医療の細分化・機械化、更には医療行為の複雑化をもたらし、その結果、医療従事者に高度な知識・技術が求められるようになってきました。
このような医療を取り巻く状況の中で、各地の医療現場において、医療事故の報告が多発しており、府民の医療に対する信頼が揺らいでいる状況にあります。最近報告されている医療事故のほとんどが、全く初歩的な誤りに起因しています。
医療従事者の一つの誤りが、患者の生死を左右することとなる以上、医療事故の防止については、医療従事者各人が一人ひとりの質的向上を図り、事故防止への取り組みを行うことはもちろんのことですが、人が行う行為であることから、「事故は起こる」という前提に立ち、医療従事者個人の努力だけに依存するのではなく、医療現場の各部門ごと並びに医療機関全体として組織的、系統的な医療事故防止の対策を打ち出すこと(リスクマネージメント)が必要です。
今般、医療事故防止に関する検討会では、各医療機関における医療事故防止対策マニュアル策定の一助となるよう「医療事故防止対策ガイドライン」を作成しました。
このガイドラインは、マニュアル作成にあたっての考え方や、考慮しなければならないポイントをまとめたものです。各医療機関においては、このガイドラインを参考に、それぞれの施設の規模、形態に応じて、医療事故防止への積極的な対応が図られるようお願いします。
また、作成されたマニュアルは、医師のみならず医療現場に従事するすべてのスタッフに周知されるようお願いします。
平成12年9月
座長 舩 冨 亨
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1.ガイドラインの位置づけ
このガイドラインは、各医療機関の自主的な取組みにより、医療事故の発生を予防し、医療の質の確保及び安全な医療提供体制を確立するため、各医療機関において、医療事故防止対策に関するマニュアルを作成する際の指針として作成しました。
このガイドラインを参考に、既にマニュアルを作成している医療機関にあっては、再度見直し、医療事故防止方策の再検討を行い、また、マニュアルを作成していない若しくは部分的にしか作成していない医療機関にあっては、それぞれの施設の規模、形態に応じて体系的なマニュアルを作成するなど、積極的に活用していただきたい。
2.医療事故防止に関する基本的な用語
医療事故の防止に関する用語は、様々な報告書やマニュアルで定義されており、意味の類似した用語が数多くあります。このガイドラインでは、各医療機関の具体的な医療事故防止方策に関するマニュアルを作成するにあたって、医療事故に関連した基本的な用語について、以下のとおり整理しています。
(1)リスクとリスクマネージメント ●リスク● ●リスクマネージメント● (2)医療事故と医療過誤 ●医療事故● ●医療過誤● (3)インシデントとアクシデント ●インシデント(偶発事象)● ●アクシデント● (4)その他 ●医事紛争● (※1)その他、同じ意味合いで「ニアミス」という用語が使われることがありますが、このガイドライン ではすべて「インシデント」の用語で統一しています。 |
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3.医療事故防止のための基本的事項
日常業務の中で医療事故を防止するため、院内における医療事故防止方策を検討するうえにおいて、職種・部門等を問わず、医療関係者が共通して認識しておかなければならない医療事故防止のための基本的事項を整理しています。
(1)医療従事者は常に「危機意識」を持ち、業務にあたる。
医療行為は不確定要素が多く潜在し、常に危険と隣合わせにあります。医療従事者はこの危険性を充分認識し、医療事故はいつでも起こりうるものであるという「危機意識」を持ち、業務にあたることが必要です。
(2)患者最優先の医療を徹底する。
どのような事態においても患者最優先の体制で業務にあたることが不可欠です。質の良い医療は、患者本位の医療から始まります。患者への充分な配慮が欠けた時、医療事故が発生することを認識する必要があります。
(3)医療行為においては、確認・再確認等を徹底する。
すべての医療行為においては、事前に確認をすることが不可欠です。
確認する際は、自分一人ではなく、複数の者による確認を行い、また業務遂行の過程で疑問や理解不可能な事柄があれば、必ず事前に周囲の人と相談するなど、再確認をし、理解してから医療行為を行うことが必要です。 換言すれば、医療従事者一人ひとりが「あたりまえのことをきちんとする。」ということの再認識が大切です。
(4)円滑なコミュニケーションとインフォームド・コンセントに配慮する。
患者とのコミュニケーションには十分配慮し、訴えを謙虚な気持ちで聞き、約束は必ず守るよう心がけることが大切です。
言葉遣いは丁寧でわかり易く、誠意をもって対応し、患者や家族への説明にあたっては、その内容が十分理解されるよう配慮することが必要です。
(5)記録は正確かつ丁寧に記載し、チェックを行う。
診療に関する諸記録の正確な記載は、事故の防止に役立つとともに、万一事故が発生した場合においても、適切な対処ができます。記録は正確かつ丁寧に記載する習慣をつけるとともに、上司・先輩・同僚などのチェックを受け、医療の質の向上につなげることが大切です。
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(6)情報の共有化を図る。
各部門(診療部門、看護部門、薬剤部門等)で発生したインシデントや医療事故については必ず報告し集積・分析・対策を講じる一連のシステムを構築し、医療事故の再発防止のため、広く組織全体に周知を図り、情報を共有することが必要です。
また、事例報告が十分になされる環境を整える(例えば報告が個人の評価とは必ずしも関係するものでないことを報告書等に明記するなど)ことも大切です。
(7)医療機関全体で、医療事故防止への組織的、系統的な管理体制を構築する。
(リスクマネージメントの必要性)
医療事故の防止については、医療従事者個人の事故防止への取組みや努力だけに依存するのではなく、人が行う行為である以上、「事故は起こる」という前提に立ち、医療現場の各部門ごとまた、医療機関全体として医療事故の未然防止や、医療事故からの損害を最小限にくい止める組織的、系統的な医療事故防止のシステム(リスクマネージメント)の整備が必要です。
(8)自己の健康管理と職場のチームワークを図る。
医療従事者は、自己の肉体的・精神的状況を客観的に評価し、不調の場合は、特に慎重な態度で従事するよう心がけることが必要です。
また、トップは職場におけるチームワークについても、冷静な評価を行い、職場環境の問題点を明確にして早期に解決策を打ち出すことも重要です。
(9)医療事故防止のための教育・研修システムを整える。
医療事故防止のため、最新情報を取り入れながら、具体的で実践的な教育を定期的に行う必要があります。教育・研修は各部門内のみでなく、組織全体としてもそれぞれの職員の役割に応じた医療事故防止のためのプログラムの導入が大切です。
(10)トップ自らが率先して医療事故防止に対する意識改革を行う。
良質な医療の提供は、病院長などトップの姿勢によって大きく影響されます。
多くの医療現場においては、上席の医師の発言や指示が権威ある絶対的なものとして扱われ、第三者による批判、検討はおこなわれない風潮がみられます。
医療事故防止に関する事項について、誰もが自由に発言し、隠すことなく議論できる環境を作り出すことが何より大切ですが、そのためにはまず、トップ自らの意識改革が望まれます。
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4.医療事故防止対策マニュアルの作成
医療事故を防止するためには、医療従事者個人の努力に加えて、基本的事項で述べたとおり医療機関が全体として取り組むことが必要です。
そのためには、院内で医療事故防止のための組織づくりやリスク管理を行う人づくりの推進、さらに安全管理体制の強化が必要です。
各医療機関における医療事故防止方策の検討及び医療事故防止対策マニュアルの作成にあたって考慮すべき事項について、以下のとおり整理しています。
(1)医療事故防止のための院内組織体制の確立
医療事故を防止するためには、医療機関全体の効果的な組織体制を構築する必要があります。具体的には医療事故防止委員会の設置、リスクマネージャーの選任・配置、医療事故報告制度の導入などがあげられます。 病院全体と各部門それぞれにおける組織体制を整備し,両者の連携を図り,病院としての一元的な体制を整備することが望まれます。事故防止のための院内組織体制を構築する上で、基本的事項を以下に示しています。
1 医療事故防止委員会の設置
(ア)医療事故防止委員会の設置
医療事故を未然に防止し、また万一事故が発生した場合、迅速に対応できるよう「医療事故防止委員会」(以下「委員会」と呼ぶ。)を設置し、安全管理体制を医療機関全体で組織化します。
(イ)「委員会」の構成員
院長をトップとし、各部門責任者で構成し、責任を明確化させます。
(ウ)運用規程の作成
「委員会」の運用規程を作成し、院内全体に周知します。
(エ)「委員会」の役割
「委員会」の役割を図示すると、概ね次のようなものになります。
【「委員会」の役割】 1.医療事故の未然防止・再発防止への役割 2.医療事故が発生した場合の役割 |
2 リスクマネージャーの配置
(ア)リスクマネージャーの選任
・ リスクマネージメントを推進するためのリーダー的役割を果たす推進責任者(リスクマネージャー) を選任します。
・ リスクマネージャーは各部門ごとに選任・配置し、その業務を統括する統括リスクマネージャーを選任します。
・ リスクマネージャーは、リスクマネージメントに関する専門的な教育・訓練を受けた者を配置することが望ましいですが、当面、これまで事故防止に役割を発揮してきた職員を担当者と位置付けることも一つの方法です。
(イ)リスクマネージャーの役割及び権限
・ リスクマネージャーは「委員会」の構成メンバーとします。
・ インシデントや医療事故等の報告を当事者から受け、「委員会」へ報告します。
・ 「委員会」での検討後、必要な情報は職員へフィードバックしていきます。
・ 医療事故防止方策の実効性を高めるため、事故防止活動に対する一定の権限をある程度付与し、医療現場と「委員会」の橋渡しの役割を担います。
3 医療事故報告制度の導入と運用
(ア)医療事故報告制度の導入
インシデントや医療事故等の事例について、現場から多くの情報を収集し、「委員会」へ報告する医療事故報告制度を院内に導入します。
(イ)報告ルートの明確化
報告は、リスクマネージャーを通じて行うなど、各部門ごとにスムーズに「委員会」に届くよう、報告ルートを明確化させます。
(ウ)報告の方法
・ 医療従事者は、インシデントや医療事故の経験をした場合に、患者への処置後、すみやかにその内容を記載したインシデントレポートもしくは医療事故報告書を提出します。なお報告にあたっては、報告の是非を当事者のみで判断するのでなく、リスクマネージャーと相談し、また、報告内容はささいなものでも報告することとし、できるだけ多くの事例を収集します。
・ インシデント、医療事故などの事例は、それぞれ様式を作成し、データ集積にも活用できるよう、文書の形式で報告します。(「(オ)報告書作成にあたっての留意事項)参照)
"と彼女は脳震盪を持っていた"
(エ)報告の活用
・ インシデントレポート、医療事故報告書の提出があれば、「委員会」で真摯に検討し、業務の改善、医療機器の点検や設備の見直しなどを行います。
・ これら報告書の内容は、職員に広く周知します。院内で他人の経験したインシデントなどの事例を職員相互で情報を共有することにより、事故発生の全体像が把握でき、それによって医療従事者の医療事故に対する意識改革が進み、以後の事故防止に役立つものと考えられます。
(オ)報告書作成にあたっての留意事項
・ 報告書は、インシデントレポート、医療事故報告書に区分します。(※3)
・ 報告書の様式は、基本的に「委員会」で検討・作成しますが、記録しやすく、記入漏れがないように、自院の機能に見合った様式に整えます。
・ インシデントレポートは、報告者が記載しやすく、また、データの蓄積・分析のためにも、記述を少なくしてチェック方式の様式にするなどの工夫をします。
報告書は診療録等と別保管にするなど、管理方法にも十分留意しておきます。
日常業務の中で医療事故を防止するため、院内における医療事故防止方策を検討するうえにおいて、職種・部門等を問わず、医療関係者が共通して認識しておかなければならない医療事故防止のための基本的事項を整理しています。
医療事故報告制度導入のポイント 〇報告しやすい環境をつくる。 |
【インシデントレポート(例その1)】 記述中心の様式
【インシデントレポート(例その2)】 統計分析用の様式
両者の内容を組み合わせるなど利用しやすい様式を作成します。
【医療事故報告書(例) 】 医療事故が発生した場合の記述様式
【インシデントレポート・医療事故報告書(例) 】 兼用の様式
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(2)医療事故防止のための院内管理体制の強化
医療事故を防止するためには、「委員会」の設置や事故報告制度など、院内組織体制を新たに構築するだけでなく、院内における既存の管理体制を見直し、強化することも重要です。以下では、医療事故の直接的、間接的な要因ともなる診療録等の記載、医療機器、医薬品等の管理体制について基本的事項を整理しています。
マニュアルの作成にあたっては、このような事項についても留意する必要があります。
1 診療録等の記載
診療録は、医療に携わるチーム全体にとって重要な情報源であり、社会的にも公的な書類であることを再認識して、だれが見てもわかりやすく、正確かつ丁寧に記載するなど、十分な配慮が必要です。
(ア)診療録の記載事項
・ 診断並びに治療計画にいたる思考過程を明確に記載します。
・ 診断や治療による危険性や副作用等について、患者や家族への説明経過や内容、それに対する反応理解度を記載します。
・ 手術・検査等を行う場合、署名、捺印された同意書を添付しておきます。
・ 患者の状況変化を経時的に記載します。
(イ)その他諸記録の記載
・ その他診療に関する諸記録は、他の医療関係者とも情報を共有することもあるため、明確かつ簡潔な記載を旨とし、主観を排し客観的記述に努めます。
2 医療機器の管理体制
従来から日常的に使用されている医療機器・医療用具の取扱いについては、原点にもどって注意を喚起する必要があります。
・ 医療従事者は、あらかじめ機器の使用法やセッティングの誤りに起因する誤作動及びその回避方法を充分理解しておきます。
・ 医療機器等の回路接続を確認し、電波障害による医療機器への影響やその回避方法についても充分理解しておきます。
・ 医療機器の操作について、初めて取り扱う者に対しては必ず事前教育・研修を行うこととし、必要に応じて指導的立場の者との共同操作等を行います。
3 医薬品等の管理体制
医療機関で使用する医薬品は、主に調剤用、院内製剤用、処置用、消毒用、臨床検査用等に用いられています。
医薬品等の管理は、使用時点における有効性、安全性を確保するための品質管理業務と、院内の需要に対して迅速に供給するための在庫管理業務があります。
また、外来、病棟にある医薬品についても、薬剤師が一元的に管理を行う必要があります。
(ア) 医薬品の品質管理
・ 品質の劣化を起こす主な原因となる温度、光、衝撃、微生物等に留意するとともに、特に温度管理や遮光管理が規定されている医薬品は、それぞれの規定の条件を備えた場所に収納します。
・ 医師、看護婦や患者等に渡った医薬品について、品質管理がなされるよう注意を払います。
・ 医薬品の納品時には、品名・数量のみでなく、品質の確認にも十分留意します。
・ 調剤時における、医薬品の汚染、品質低下を防止するための対策が必要です。
(イ)医薬品の整理・保管
・ 同一医薬品の在庫品がある場合、新規搬入品はその後部に納め先入れ先出し方式を行います。
・ 薬品棚は、注射剤とそれ以外に大別し、個々の医薬品はその中で劇薬・普通薬に区分し配置します。
・ 毒薬は、専用の鍵付薬品庫に厳重に保管します。
・ 血液製剤や放射性医薬品などは、薬局(場合によっては輸血部、放射線部)において一元的に保管・管理します。
・ 消防法によって規制されている危険物薬品(引火性の有機溶媒類や硝酸、硫酸など)は、その取扱量に応じて別棟の危険物倉庫に納めます。
(ウ)麻薬等の管理
・ 麻薬管理に関わる業務については、麻薬管理者(麻薬管理者がいない場合、麻薬施用者)が一元管理することが必要です。(ただし麻薬管理者の指揮監督下において、あらかじめ指定した者が実務を補助してもかまいません。)
・ 向精神薬、医薬品である覚せい剤原料についても、薬剤部門の長またはあらかじめ指定した向精神薬の取扱実務担当者、覚せい剤原料取扱責任者が行います。
(エ)外来、病棟における医薬品の管理
・ 薬剤部から、各外来・病棟へ払い出した医薬品の分類、適正配置、緊急用薬品の在庫、品質管理等のシステムを見直すとともに、保管、管理を徹底します。
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(3)医療事故防止に向けた対応
医療事故の未然防止のため、以下では各部門(診療部門、看護部門、薬剤部門)ごとの基本的な事故防止方策を整理しています。
自院に見合った具体的な事故防止方策の検討ならびにマニュアルを作成する際には、これら基本的事項を柱に構築していくことが適当であると思われます。
また、医療事故防止のために、常に注意すべき事項について、いつでも職員の目に触れるよう、壁などに掲示しておくことも有効な方策です。
1 診療部門
医師は、まず、人の生命に対し畏敬の念を抱くことはいうまでもありません。また、医療行為について自分の担当する患者に対しては、最終的な責任を負っています。これらを基本姿勢として診療に臨みます。
(ア)患者への対応
・ 日常診療においては、患者個人の氏名・性別・年齢等を確認します。
・ 患者との信頼関係が充分保てるように、日ごろから意思疎通が円満に図れるよう心がけます。
・ インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)をもって患者の納得、同意を得て、検査・治療にあたります。
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(イ)他部門への対応
・ 医師は与薬・注射・検査など指示を出す際には、口頭のみでなく書面で行い、記載は正確に明確な字句を用います。
・ 「あれ」、「それ」、「いつものやつ」など抽象的な指示は行わないようにします。
・ 指示の変更など前回と異なる場合は、その変更内容が明確にわかるように対応します。
(ウ)医師相互間での対応
・ 自由な発言や、建設的な議論のできる雰囲気づくりができるよう意識改革が必要です。特に、上級職スタッフが率先して行うことが重要です。
・ 医師がなした判断は、必ず他の者と意見交換し、互いに批判、検討します。
・ 医師相互間を含め、スタッフ同士お互いに協調性が保てる努力を怠らないようにします。
(エ)自己研鑽への対応
・ 医学は日進月歩で進歩していることから、自らの技術・知識を高め、臨床能力の維持や向上のため教育・トレーニング研修会など積極的に参加していきます。
・ 自らの力量を過信せず、他の医師の意見も尊重します。
・ 日常においては常に肉体的にも精神的にも充分体調を整えておきます。
2 看護部門
看護事故の多くは単純・初歩的な過失によるもので、そのほとんどが看護の基本行為が正確に出来ていない場合に事故に至っています。
看護事故防止には、看護職者一人ひとりの質の向上を図るとともに、看護部門として系統だった取組みが不可欠です。
(ア)患者誤認の防止
〇他部門への患者引き継ぎ時の注意事項
・ 患者の氏名の確認を複数で行います。
・ 患者誤認の防止の目的で、意識のある患者には自分で氏名を言ってもらいます。
・ 患者搬送時は、一人の患者を一人の看護婦が最初から最後まで責任持って対応します。
・ 受け入れ側と送る側の両方で声を出して、患者名等必要事項を確認します。
〇患者情報の引き継ぎ時の注意事項
・ 患者の氏名の確認を行った後、記録された情報を正しく引き継ぎ、受け入れ側は復唱し確認を行います。
・ 情報内容によっては(例えば血液型など)患者への質問を通して確認をします。
(イ)誤薬防止
〇準備時の注意事項
・ 指示された内容を診療録で確認します。(原則的に口頭指示は受けないようにします。)
・ 声に出して複数回確認します。(最低2回は確認)
・ 声を出して複数人で確認します。(ダブルチェック)
・ 一人1トレイに準備します。
・ 準備した医薬品・患者名が分かるようにしておきます。
・ 最初から最後まで一人が責任を持って準備にあたります。
〇与薬時の注意事項
・ 準備した人が与薬まで責任を持って行います。
・ 患者の確認を行います。
・ 複数回の確認をします。
・ 終了するまで、薬袋・空アンプル等は捨てないようにします。
・ 患者参加が可能な場合は、説明を行います。
(ウ)転倒・転落防止
〇入院前の患者の状態についての情報収集
・ 患者の行動レベル(日常生活動作・安静期間等)を把握します。
・ コミュニケーションレベル(意思の疎通・理解力)を把握します。
〇環境の調整
・ 患者の状態に応じた療養環境を提供します。
(観察しやすい病室、トイレとの距離、ベッドの高さの調整、ベッド柵の選択、離床センサー等)
・安全な環境調整
(滑り易い床、夜間の照明、突起・段差等の障害物への配慮、ベッド柵の確認)
〇患者個々人への配慮
・ 長期間の臥床により姿勢保持能力が低下(筋力低下)することを患者に認識してもらいます。
・ バランスを失いやすい行動(体の向きを変える時、動作の変わり目)に対して配慮します。
・ 患者によっては、予測されない行動に移る場合がある事を認識しておきます。
〇その他
・ 患者の履き物に配慮します。
・ 家族へ適切な説明をし、協力を依頼します。
3 薬剤部門
医薬品等における「誤認」「誤薬」は、病院の規模に関係なく発生しています。
薬剤による医療事故を防止するためには、病院全体として職員の啓発・教育のみならず、自院に見合った事故防止システムの導入を図ることが必要です。
とりわけ、薬剤部門については、薬剤師が日常の薬剤業務について惰性に陥ることなく、常に「危機意識」を持ち、他のスタッフとも協力して、医薬品の適正使用を図り、薬剤に係る事故防止に努めなければなりません。
(ア)処方内容の確認事項
・ わからない文字等も含め、処方医等への疑義照会は正確に行い、その内容は必ず記録します。
(医師は常にわかり易い字で処方せんを書くようにします。)
・ 処方内容のみではなく、年齢・性別等の患者情報にも注意します。
(イ)調剤業務に関する注意事項
・ 調剤にあたっては、複数人で確認し、たとえ1人であっても再チェック(監査)します。
・ 調剤中は、電話に出る・話しをする等、注意散漫になる要因をできるだけ排除します。
・ 外用剤などには、注意文書や目印を貼付して、用法を明確にしておきます。
・ 消毒剤も用途に応じて、至適濃度(%)が異なるので、用途を確認して調製や払出しを行います。とりわけ、希釈する場合には、濃度に十分注意します。
(ウ)散剤、特に倍散に関する注意事項
・ 倍散の場合は、常用量の確認をしながら作業します。それでも疑義が生じる場合は、処方医に必ず疑義照会します。
・ 配合変化などは、記憶に頼らず、医薬品集やデータベース等を活用して、必ず確認します。
(エ)院内製剤の調製に関する注意事項
・ 院内製剤の調製に当たっては、チェックシート等を利用して1工程づつ薬剤師が確認します。
(オ)名称、外観、包装等が類似した医薬品に関する注意事項
・ 類似医薬品名があることを認識します。
・ 名称、外観、包装等が類似している場合の医薬品については、収納場所等を工夫し、調剤棚(台)に目印や注意喚起文書を貼付し、医薬品の取り違えのないよう最善の注意を払います。
(カ)規格・単位に関する注意事項
・ 規格・単位が数種類ある医薬品があるので、処方内容が医薬品名と数量のみの場合は、規格・単位についても確認します。
・ 年齢・用量等についてもチェックします。また、用量では単位(g、mg、ml)に注意を払います。
・ 注射剤については、同一医薬品名で、筋注・静注・皮下注など施用部位が異なる場合があるので、注意します。
(キ)医薬品の保管場所に関する注意事項
・ 常時、温度・湿度管理などを?い、適正な保管管理を行います。
・ 外観上、品質変化のわかりにくい医薬品もあるので、外箱に記載している有効期間又は使用期限に注意します。
・ 納品を受けた場合は、必ず発注した医薬品の規格・単位・包装の内容との確認を行い、所定の保管場所に速やかに保管します。
・ 麻薬、医薬品である覚せい剤原料は、盗難等を防止するため、院内にそれぞれ専用の鍵をかけた保管設備(固定した保管庫又は容易に移動できない重量保管庫)に保管し、向精神薬は、できるだけ部外者の目につきにくいところ、あるいは施錠可能なロッカー等へ保管します。
(ク)病棟に定数保管する医薬品に関する注意事項
・ 病棟保管医薬品については、管理担当者を決め、定期的に点検し、破損・期限切れのないように注意します。
・ 病棟で麻薬、医薬品である覚せい剤原料、向精神薬を保管する場合は、上記(キ)と同様です。
(ケ)その他薬物療法を適切に運用するための具体策の検討
・ 患者への与薬・注射については、薬歴管理をシステム化し、カルテとの一体化を検討し、患者の薬剤及び他の情報を検索でき、薬物療法についての方針が確認できるシステムを検討します。
・ 薬剤の誤認・誤使用防止及び副作用等の早期発見には、薬剤師が与薬を患者ごとにセットで渡し、薬剤を一 元管理することが望まれます。
4 その他部門
上記3部門の他に医療機関においては、例えば放射線部門、検査部門、輸血部門、リハビリ部門など多数の部門が存在します。また、透析、精神、結核、療養型病床群など医療機関の特性もさまざまです。これら部門、特性、形態に応じた事故防止方策もあらかじめ決めておく必要があります。
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(4)医療事故発生時の対応
医療や看護の過程において、医療従事者が当然払うべき業務上の注意義務を怠るなどにより、患者に損害を及ぼし、場合によっては患者を死に至らしめることがあります。重大事故の発生直後は、冷静かつ誠実に患者家族への対応をすばやく行うことが重要です。
1 患者・家族への対応
(ア)最善の処置
・ 医療事故が発生した場合、まず患者に対して可能な限りの緊急処置を行います。引き続き、多くのスタッフを呼び集め、最善の処置を施していきます。
(イ)責任者への報告
・ すみやかに責任者へ報告し、自院で対応できない場合には、転医の指示を得なければなりません。
(ウ)患者・家族への説明等
・ 処置が一段落すれば、できるだけ速やかに患者や家族等に誠意を持って説明し、家族の申し出についても誠実に対応します。
・ 「委員会」の審議の結果、病院側の過誤が明らかな場合、責任者が率直に謝罪します。しかし、過誤の有無、患者への影響などは発生時には不明確なことが多いので、事故発生の状況下における説明は慎重かつ誠実に行うようにします。
(エ)事故記録と報告
・ 患者への処置が一通り完了した後、できるだけはやく事故報告書を作成します。
・ 事故当事者は、事故概要を「事故報告書」に記載します。余裕のない状況下での記載を想定し、報告書は簡潔かつ容易に記載できる様式にしておきます。
・ 事故の概要、患者の状況、現在の治療、今後の見通し及び患者等への説明した内容などを診療録に必ず記載しておきます。
2 警察署への届出
医療事故が原因で患者が死亡するなど重大な事態が発生した場合には、速やかに所轄の警察署に届出を行います。
これは、医師法21条により、異状死体については24時間以内に所轄警察署へ届け出ることを義務づけられていることによるものです。
なお、患者の死亡など結果が重大で、医療事故か否かの判断が困難な場合、自院の透明性の高い対応を行うという観点から、警察署への届出を速やかに検討します。
3 保健所、関係行政機関への報告
医療事故が原因で、患者が死亡するなど重大な事態が発生した場合、保健所等関係行政機関の実地調査、立入検査を受け入れることは、医療事故の発生原因の解明や、再発防止につながることから、所管の保健所等、関係行政機関に対しても、速やかに報告を行います。
4 事故当事者への配慮
医療事故に関わった当事者は、ミスが明白なものであれば自責の念にかられています。とりわけミスが重大な結果を引き起こしたような場合には、通常の精神状態を保つことが困難であることも考えられることから、患者や家族・遺族への対応やマスコミ報道など、当事者に対する十分な配慮を構ずることも重要です。
5 重大事故の公表
(ア)重大事故の公表
重大な医療事故が発生した場合、保健所、警察署への届出を終えたのち、医療機関自らがその医療事故の事実を正確かつ迅速に社会に対し、積極的に公表していく必要があります。これは、医療が生命の尊重と個人の尊厳の保持を基本理念としていることから、医療機関は一般に社会的公共性が高いと考えられるからです。
また、医療事故への対応に係る透明性の確保や、患者・家族及び社会への誠実な対応は、より良いリスクマネージメントにつながり、結果的に双方によい結果をもたらすと考えられます。
(イ)患者・家族等のプライバシーの尊重
医療事故を公表する場合は、患者や家族のプライバシーを最大限に尊重しなければなりません。公表の前には、患者・家族と十分話しあい、また事故当事者への十分な配慮も必要です。
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5.医療事故防止のための職員の教育・研修及び訓練 医療事故を防止するためには、医療従事者個人の資質・技能水準の向上を図ることが重要であることは言うまでもありません。しかしながら、その向上を個人の努力にのみ依拠させるのではなく、組織全体として取組んでいく姿勢が大切です。
以下では組織としての人材育成・研修のあり方について整理しています。
(1)職員に対する啓発
・ 職員個人が日々自己啓発、質的向上に努めるとともに、組織として職員の能力を向上させるため、定期的・計画的に教育・研修の機会を設けます。教育・研修の際には、機会ごとに「どんな小さな出来事でも、大きな事故につながる」ことを強調し、常に「危機意識」を持ち、業務にあたるよう指導していきます。
(2)組織で取組む研修
・ 医療事故の事例(他施設での事例なども含む)を資料に研修を行います。
・ 研修は、新規採用者研修・経年別に行う現任者研修と全体での研修を定期的、計画的に行います。
・ 医療機器について、関係スタッフ全員がその各機能についての操作マニュアルを十分熟知するよう研修・講習を行います。
・ 医療事故発生後の対応を迅速に行えるよう、常日頃からの患者への緊急処置の訓練を実施しておきます。
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お わ り に
この冊子は、医療事故の発生を予防し、医療の質の確保及び安全な医療提供体制の確立を図るため、各医療機関が自主的な取り組みにより、医療事故防止対策のマニュアルを作成する指針として作成しました。
医療事故は、さまざま要因が複雑に関連して起こります。このガイドラインに掲げた事故防止方策は、すべての医療事故の発生を防ぐものではありません。
このガイドラインに掲げた事故防止方策以外にも有効な方策があると考えられますし、また、各医療機関独自の方策なども盛り込み、より良いマニュアルが作成されることを期待します。
また、マニュアルは作成するだけはなく、実行を伴ったものにしていかなければなりません。
今後とも、医療事故の防止に叡智をふるい、患者がいつでも安心して医療を受けられる医療機関として、日々努力されることを期待します。
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【参 考 文 献】 1) 医療におけるリスクマネジメントについて―医療安全対策委員会答申― |
大阪府健康医療部保健医療室 医事看護課 医事グループ
〒540−8570 大阪市中央区大手前2丁目
電話:06−6944−9170(直通) ファックス:06−6944−7546
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