証拠の記述
予防とは、がん発生率が低下することによりがん死亡率が低下することであると定義される。これは、発がん物質を回避するかまたはその代謝を変化させること;がんの原因となる諸因子または遺伝的素因を修飾するライフスタイルまたは食習慣を実践すること;医学的介入(例、化学予防);または大腸ポリープに対する結腸鏡検査など、前がん病変を切除することができる早期発見戦略により達成できる。
PDQがん予防要約について
PDQがん予防要約は、特定の悪性腫瘍が有する独特な特徴の考察を容易にするため、主にがんの特異的な解剖学的部位ごとに構成されている。本セクションでは、広範な悪性腫瘍の予防に用いられる選択された予防戦略に対する証拠の要約など、がん予防戦略の概要を提供する。しかしながら、これらの戦略の証拠の強さおよび影響の大きさは、がんの部位によって異なる。PDQの他のがん予防要約では、特異的な種類のがんの予防を扱っており、より詳細な証拠の記述が提供されている。
がんの原因については多くの一般的な信念または推測が存在する。しかし、肯定的または否定的のいずれにせよ、科学的根拠がほとんど存在しない推定上のがんの原因は、PDQがん予防要約では検討しない。したがって、これらの要約に特定の環境因子、食物因子、またはライフスタイル因子が含まれていない場合は、詳細な検討を行うための証拠が不十分であることを示しており、必ずしも効果がないことを意味しているとは限らない。そうした多くの因子は、がんに対する潜在的な役割について研究が行われるべきであるが、その研究が存在しない場合、発表されていない場合、または編集委員会により質が低いと判定された場合、PDQがん予防要約ではそれらを取り扱わない。
発がん
発がんとは、がんに至る根底にある病因学的経路を意味する。発がんのいくつかのモデルが提唱されている。広く引用されている発がんの2つのモデルは、VogelsteinおよびKinzlerのモデル [1] とHanahanおよびWeinbergのモデル [2] である。VogelsteinおよびKinzlerのモデルでは、がんは究極的に損傷したDNAの疾患であり、正常細胞をがん性細胞に形質転換させうる一連の遺伝子突然変異で構成されると強調されている。遺伝子突然変異には腫瘍抑制遺伝子の不活性化とがん遺伝子の活性化が含まれる。一般集団に発生するがんと比較して、がんに対する主要な遺伝的素因を有する個人は、がんの原因に関与する遺伝子に遺伝的(すなわち、生殖細胞系)突然変異をもって生まれ、がんへの経路において先行したスタートを切る。すべての個人において、類似の突然変異はがん進行を引き起こすと予想される;しかしながら、主要な遺伝的がん素因をもたない個人における突然変異は生存期間中の後期に体細胞突然変異として起こる。
HanahanおよびWeinbergのモデルは、細胞レベルで悪性腫瘍に至る特徴的なイベントに焦点を当てている。このモデルでは、がんの特徴として、持続性の血管新生、無限の複製能力、アポトーシス回避、増殖シグナルの自給自足化、および抗増殖シグナルに対する非感受性などが挙げられており、浸潤および転移する能力を与えることで悪性腫瘍の特徴が定義される。このモデルは、悪性腫瘍は有機体の環境内で発生および繁殖するという事実を強調している。組織構成分野理論(tissue organizational field theory) [3] では、発がんは細胞よりもむしろ組織レベルでより良く概念化されると仮定されている。この理論は、発がんは組織形成における欠損により推進される、およびすべての細胞は本質的に増殖状態にあるという二重の前提に基づいている。
このような発がんのモデルは意図的に単純化されているが、にもかかわらず、発がんにはしばしば数十年かけて起こる一連の段階が必要であることを示している。
発がんの複雑さは、これらのモデルにより記述される個別の詳細な発がん経路が個々の解剖学的部位に独特な特徴を有することが予想されることを考慮する際に強められる。こうした状況において、悪性腫瘍の危険因子および臨床的特徴は、解剖学的部位および同じ解剖学的部位内の異なる腫瘍の種類により相当なばらつきを示す。これらの理由から、ヒトのがんは実際には単一の疾患ではなく、異なる疾患群である。
危険因子
複数の観察的疫学研究により、修正可能なライフスタイルの諸因子または環境暴露と特定のがんとの間には関連が示されていることからがん予防は有望である。少数の暴露について、複数の疫学研究および実験室での研究に基づく手がかりによって示唆される介入法ががん発生率および死亡率を低下させるかどうかが、複数のランダム化比較試験で検証されている。
がんと因果関係がある危険因子
喫煙/タバコ使用
何十年間にもわたる研究により、タバコ使用と多くの部位のがんとの強い関連が一貫して確立されている。特に、喫煙は、肺がん、口腔がん、食道がん、膀胱がん、腎がん、膵がん、胃がん、子宮頸がん、および急性骨髄性白血病の原因として確立されている。これらの関連を確認する一連の疫学的証拠は強固である。さらに、米国における肺がん死亡率は喫煙傾向を反映していることから、このことが裏づけられており、喫煙率が増大するとそれに次いで肺がん死亡率が劇的に増大し、近年では喫煙率が低下したため、それに次いで男性における肺がん死亡率が低下した。正確な測定が比較的容易な単一の暴露として、この一連の大規模な証拠から、喫煙は米国におけるがんによる全死因の30%を占めていると推定されている。喫煙の� �避および禁煙により、がんの発生率および死亡率は低下する。(詳しい情報については、肺がんの予防;肺がんのスクリーニング;および喫煙:健康上のリスクと禁煙方法に関するPDQ要約を参照のこと。)
感染
全世界的に、感染性因子は全がん症例の18%を引き起こしていると推定されている。 [4] 感染により引き起こされるがんの負担は、発展途上国(26%)の方が先進国(8%)におけるよりもはるかに大きい。ヒトパピローマウイルス(HPV)の発がん性株感染は、その後の子宮頸がんに必要なイベントであると考えられており、ワクチン接種で免疫が得られれば、前がん病変は顕著に減少する。HPVの発がん性株はまた、陰茎がん、膣がん、肛門がん、および中咽頭がんとも関連している。がんの原因となる感染性因子の他の例は、B型肝炎およびC型肝炎ウイルス(肝がん)、エプスタイン-バーウイルス(バーキットリンパ腫)、およびヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pylori)(胃がん)である。感染性因子が真にがんの原因である場合、感染症に対する効果的な介入はほとんどの例で有効ながん予防の介入となることが期待される。これは、HPV発がん性株感染を予防するワクチンに関する期待である。この原則が当てはまらない例は、抗生物質を使用してもがんの原因となる細菌による発がんを防止できない抗生物質耐性の状況である。(詳しい情報については、子宮頸がんの予防;子宮頸がんのスクリーニング;肝(肝細胞)がんの予防;および肝(肝細胞)がんのスクリーニングに関するPDQ要約を参照のこと。)
放射線
放射線は、高速の粒子または電磁波という形のエネルギーである。放射線、主に紫外線および電離放射線への暴露は、明確に確立されたがんの原因である。太陽紫外線への暴露は非黒色腫皮膚がんの主要な原因であり、非黒色腫皮膚がんはヒトの集団において群を抜いて最も一般的な悪性腫瘍である。 [5]
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